Pentacon F
 
 世界最初の一眼レフである「Contax S(1949)」の最後の直系、Pentacon F。国営ツァイス・イコン社(東ドイツ)製。2004年の自分へのご褒美として購入。自分へのご褒美・・・それは物欲を煽る魅惑の言葉。しかしこの言葉、自分で言うのはよくても、雑誌などに書かれると腹立たしいのは何故だろう。

■名前と沿革■
 「ペンタコン」という結構間抜けな響きをもつ名前だが、1846年からの歴史を誇るカール・ツァイスの流れを汲む、由緒正しいカメラである。1846年といえば、まだブルックナーは世に出ていない青年(22歳)、チャイコフスキーに至っては未だ6歳。交響曲でいえば、シューマンの2番が完成した年。ということは、ツァイス・イコンが世界初の一眼レフを発売した当時(1949年)、既にツァイスは1世紀の歴史を重ねていたことになる。まさに、ツァイスが光学分野において神がかった存在だったことが想像できます。レンズの光をそのままファインダーに投影できるという長所を持ち、今なおカメラ業界の重鎮である「一眼レフ」という方式を世界で最初に実用化できたことにも納得がいくというものです。

(一眼レフ方式を開発したまでは良かったが、東西ドイツ分裂の混乱の最中でツァイスは没落していく。東ドイツ・国営ツァイス・イコン社はペンタコン人民公社に編入され、西ドイツ・ツァイス・イコン社(カール・ツァイス財団のカメラ生産部門)は1971年にカメラ生産から撤退。カール・ツァイスという財団は存続したものの、商標の安売り(*例)を余儀なくされ、その神威は現代においては全く無力化している・・・2006年現在、巻き返しを図る動きも。)

■機能■
 簡単に歴史を振り返ったところで、このペンタコンFに話を戻そう。一眼レフの始祖ということから、どんなに現代の一眼レフと違うのかと思いきや、意外と普通に使える。異なる点を挙げるとすれば、

1.AF・露出計なし・・・デジタル一眼はMFレンズを使うことを前提に機種選定しましたが何か。
2.ミラーが自動で戻らない(クイックリターン機構がない)ため、シャッターを切るとファインダーは真っ暗に。ファインダーは巻き上げで見えるようになる。・・・何か問題でも?
3.ファインダー周辺部が暗い。ピントは意外に合わせやすい(中央部のみ)。中央部のピント検出能力は、悪評高いEOSファインダーより僅かに上、程度か。また、ファインダー視野率が低い。確実に90%ありません。ファインダーより一回り広い範囲が写る。ひょっとしたら80後半すら確保できていないかも・・・。
4.スクリュー式のレンズを使うため、レンズ交換に若干時間がかかる。

こち亀63巻より。この頃のこち亀はネタも掛け合いも実に絶妙。

5.年式的に、高速シャッターは精度が出ない。1/1000は1/500くらいです。・・・日中は絞りを絞ろう。

 というように、このくらいしか異なる点はない。普通の用途においては、十分現役を張れると思う。(視野率の低さはかなり問題だけども、そこはファインダー外を見る想像力でカバーしましょう。)

 また、シャッターが若干特殊で面白い。まず、シャッターボタンが変なところについているが、意外に押しやすく、特に縦位置は通常のものより押しやすいくらい(私にとっては)。シャッター音は、クイックリターン機構がないせいか機械式一眼レフとしてはうるさくない方ではないかと思う。ただし、スローシャッターでは歯車の回る音が賑やか。そしてどのスピードでもスローガバナー(遅延機構)の動作時間が一定なので、1/20でも1秒と同じ長さの音がする。シャッタースピード切り替えの手順は、接眼部横の切り替えスイッチで高速と低速を切り替える。

■長所■
 長所は、やはりそのすっきりした綺麗なデザイン。頭の部分が低くて滑らかな印象を与え、また肩の部分(巻き上げ・巻き戻しノブ)が左右対称なのもポイントが高い。塔のモチーフはドレスデンの工場の塔だそう(1926年、4大カメラ会社の合併によってツァイス・イコン社が誕生したのですが、その内の一社、ハインリヒ・エルネマン社の塔)。このモチーフも本機の柔らかい感じとよく合っている。また、シャッタースピードを表示する部分が土星のようなファンキーな形ですが、このあたりは現代の「iPod系」デザイナー(?)にはおよそ為し得ない遊び心ではないだろうか。

 いいことづくめのデザインながら、ひとつだけ問題ががある。それは・・・レンズマウント部があまりにすっきりしすぎているので、レンズが脇に出っ張り、不恰好になってしまうということ。

レンズ:フレクトゴン35ミリ。普通の太さのレンズなのに・・・。

 これはデザインの合うレンズ(根元の細いレンズ)を地道に探していくことになりそう。幸い、レンズのマウント(=規格)は世界中に星の数ほどあるM42マウント。似合うレンズを入手次第特集していきたい。
 
<追記>
 KMZのインダスター50(シルバー)が似合います。無限は微妙に出ないけどF5.6以上なら何とか。詳細はこちらへ。

 
■スペック
発売年 1959年
レンズ M42・ねじ込み式レンズ
シャッター B,1-1/1000、露出計なし
フォーカス 全面マット式
ファインダー 一眼レフ(ミラーのクイックリターン無し)
サイズ 147*85*50(mm)、585g
■「ペンタコン」の由来とドイツ分裂の超簡単な補足
 ペンタコンの名前のルーツは「ペンタプリズム+コンタックス」。「ペンタプリズム」とは、一眼レフカメラがレンズから入った光を45度のミラーと5角形のプリズムで撮影者の目に導く際の5角形プリズムのこと。そして「コンタックス」とは戦前から使われていたツァイス社の有名なカメラの商標。今は京セラが買い取っている状態(2005年撤退)。
 何故カメラの名前がコンタックスからペンタコンに変わったのだろうか。それは、第二次大戦後、ドイツ分裂と共にツァイス社が分裂した際、両社が「コンタックス」商標をかけて争った結果、東ドイツの国営ツァイス・イコン社が敗訴したため「コンタックス」という名を使えなくなったから。
 因みにその後ツァイス・イコン社はそのブランドと共にいったん消滅する。しかしカール・ツァイス財団は2004年、突如「ツァイス・イコン」ブランドの復活を宣言、レンジファインダー・カメラ及び交換レンズを発売することになった。復活自体は悪いことではないと思いますが、このままではただの懐古趣味に過ぎない。時代に即した刺激的な製品開発を期待したいところです。

 ★このカメラが如何に革命的かについて分かる、充実コラム:東京レトロフォーカス
 ★コンタックス&ペンタコン全モデルの参考リンク:mike's plaktica collection(英語)

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